ことの始まり
相模中研に入所してGE研究室に配属され、最初に手掛けたのがシュードモナス・プチダ由来のメタピロカテカーゼ(カテコール 2,3-ジオキシゲナーゼ、C23O)遺伝子の発現ベクターの構築です。C23OのSD配列が大腸菌内での翻訳に適していたようで、メタピロカテカーゼの大量生産に成功しました。メタピロカテカーゼはカテコールを開裂し酸素を添加して黄色のα-ヒドロキシムコン酸セミアルデヒドを生成するので、これをマーカー遺伝子として利用することを考えました。すなわちメタピロカテカーゼをIgGと結合するプロテインAと融合することにより、メタピロカテカーゼ-プロテインA融合タンパク質を酵素免疫アッセイに利用することを試みました。
経緯
メタピロカテカーゼのC末端側に任意のポリペプチドを付加した融合タンパク質を発現することのできるベクターpMK12を作製しました。これにプロテインAの構造遺伝子を挿入し、メタピロカテカーゼ-プロテインA融合タンパク質の発現ベクターpMPRA3を構築しました。
結果
pMPRA3を大腸菌で発現させたところ、メタピロカテカーゼ-プロテインA融合タンパク質が可溶画分の70%と大量に生産されることが示されました。しかも融合タンパク質はメタピロカテカーゼ活性とIgG結合活性の両方を有しており、これを用いて抗BSA抗体の酵素免疫アッセイを行うことができました。続報(Kobatake et al., 1991)で、酵素免疫アッセイのより詳細な検討を行っています。
余談
小畠英理氏は、遺伝子組換え技術を習得する目的で、東工大の相澤研究室から碇山氏を通じて研修生として派遣されてきました。本研究は小畠氏の学位論文の一部になっています。なお、小畠氏のご尊父の小畠陽之助博士の膜電位に関する論文を、私が大学院時代に熟読しました。不思議な縁です。
被引用文献
マーカー遺伝子とプロテインA遺伝子を融合させたものはすでに報告されていました。マーカー遺伝子としてメタピロカテカーゼ遺伝子を用いたことは新規ですが、メタピロカテカーゼの安定性に問題があり実用化にはいたりませんでした。8報中5報は小畠氏らの論文です。異なる機能を有する二種のタンパク質を融合させることによって、融合タンパク質の新しい利用法の展開を図っています。この中ではProtein A-Luciferaseに関する論文(R93676a)が最も多く引用されているようです(Google Scholar 被引用数70件)。