ことの始まり
2009年3月、モンタナ州立大学のDr. Chaofu Luからメールがあり、Springer Scienceから”cDNA Libraries: Methods and Applications”という本を出すので、1章分を執筆してもらえないかという打診がありました。我々のベクターキャッピング法に関する論文(K08-1)を読んで、その背景と即使用可能な実験プロトコルをこの本に是非入れたいとのことでした。ベクターキャッピング法による完全長cDNAライブラリー作製法はこの本の趣旨にぴったり合致しますし、ちょうど良い機会ですので、引き受けることにしました。
内容
実験プロトコルということなので、必要な試薬を始め、ベクタープライマーの調製法とcDNA合成法のみならず得られたデータの解析法までを含めて、詳細に記述しました。cDNA合成法は改良法(K08-1)に基づいています。
個々の工程は、従来知られているプロトコルと大きな違いはないし、あまりにも単純すぎて、仰々しくプロトコルと言えるほどのものではありません。ただ、ベクタープライマーの品質が成否を左右するので、ベクタープライマーの調製法と副産物生成を少なくする方法に重点を置いて記述しました。通常のcDNAライブラリー作製を行った経験のある方ならば、このプロトコル通りに実施すれば、誰もが完全長cDNAライブラリーを作製できるはずです。
余談
この本に収録されている他の論文に目を通してみました。完全長cDNAライブラリーに関する論文は3報載っていますが、作製法に関するのは我々の論文だけです。この本の編者らは、キャップトラッパー法で作製したヒマ種子の完全長cDNAライブラリーから、ヒマ脂肪酸ヒドロキシラーゼcDNAをクローニングしたという内容の論文、もう一つは、ロシアの研究者がSMART法で作製した完全長cDNAライブラリーを用いてノーマライゼーションを行ったという論文です。
被引用文献
本ということもあり、引用されたのは二つの論文によってだけです。一つは、ブタのトランスクリプトーム解析にベクターキャッピング法で作製した完全長cDNAライブラリーを用いた論文(R12029)と、もう一つは、理研BRCから分譲されたフィラミンCの完全長cDNAクローンを使用した論文(R19009)です。前者はK05-1、後者はK11-2でも引用されています。