論文

Article No. K90-1
Title Production of a protein A-lymphotoxin hybrid protein for cancer-targeted therapy.
Authors Wada M, Kasumimoto T, Miki T, Osada H, Kato S.
Journal J Biotechnol. 1990 Mar;13(4):325-34.
PMID 1366561

ことの始まり


相模中研GE研究室において、成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-I)感染T細胞株HUT-102から作製したcDNAライブラリーからリンホトキシン(LT)のcDNAをクローン化することに成功し(K89-1)、ヒト骨髄性白血病細胞の分化誘導活性を有することを明らかにしました(Hemmi et al., 1987)。LTに関してはすでに特許が出されていたので、新しい機能を付与した形で権利化できないかを考えました。LTは強い抗腫瘍活性を有していますが、他にも多くの生理活性を有しており副作用の原因となっています。そこで腫瘍部位にのみ集まるようにすることにより、副作用が軽減できるのではないかと考え、プロテインAとの融合タンパク質を作製することにしました。プロテインAはIgGのFc領域に結合するので、プロテインA-リンホトキシン融合タンパク質(ALT)を腫瘍特異的抗体と結合することにより、LTを腫瘍部位に集めることが出来るのではないかと考えました。


経緯


HUT-102由来のAsn型LT遺伝子をプロテインA遺伝子の下流に接続し、大腸菌によるALTの発現ベクターpPRALT1を作製しました。大腸菌で生産したALTを精製し、そのLT活性とIgG結合活性を調べました。


結果


pPRALT1を導入した大腸菌の可溶画分にSDS-PAGEでバンドとして見える量のALTが得られました。ALTはLT活性とIgG結合活性の両方を有しており、IgGカラムで精製することができました。ALTの内部にセリンプロテアーゼの認識部位があり、大腸菌に含まれるプロテアーゼやトリプシンによって切断され、成熟LTの20番目のMetから始まるMet20-LTを生成することが示されました。Met20-LTはALTよりも数倍高いLT活性を有していました。


余談


本研究は、保土谷化学の和田政勝氏、霞本隆徳氏、三木鉄蔵氏の強い熱意のもとに行われました。ALTが期待通りの活性を有することから、その後、保土谷化学と東北大が共同で、担癌マウスを用いて抗腫瘍効果を調べることになりました。腫瘍内投与実験の結果、ALTはLTと同様の腫瘍完全退縮を起こすことが示され、LTに比べ腫瘍組織からの流出が遅いことが示されました(Miki et al., 1991)。三木氏はこれらの研究で東北大学で学位を取得されました。


被引用文献


本論文を引用したのはプロテインAとの融合タンパク質に関する論文(R91502a)と三木らの担癌マウスへの投与実験(R91501)のみです。LTは多くの生理活性を有するため副作用も多く、これまでのところ抗がん剤としての開発は行われていません。LTの新しい用途が出てくれば、LTの大量生産法としてALTは有用な手段になりうると思われます。

被引用文献リスト (Ref IDで、aが付加しているものは、アブストラクトのみアクセス可。)
No. Ref ID 研究機関 雑誌名 論文タイトル 被引用内容 PMID
1 R91502a スウェーデン University of Lund Anal Biochem. Standard calibration proteins for Western blotting obtained by genetically prepared protein A conjugates. Protein A-LT 1952063
2 R91501 日本 東北大
保土谷化学(株)
Jpn J Cancer Res. Preparation of recombinant protein A-lymphotoxin chimeric protein and its antitumor effects in mice. Protein A-LT 1900826
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