論文

Article No. K13-1
Title Identification of genuine alternative splicing variants for rare or long-sized
transcripts.
Authors Kato S
Book In: DiMaggio S. and Braschipp E. eds. New Developments in Alternative
Splicing Research. New York, Nova Biomedical. p.89-108, 2013.
PDF Chapter 5

ことの始まり


2013年1月、Nova Science Publishersから”New Developments in Alternative Splicing Research”の出版を計画しているので、執筆しないかというメールがありました。当時、2種類の網膜細胞株のトンランスクリプトーム解析によって、多くの選択的スプライシングバリアントの存在を明らかにしていたので(K08-1K11-2)、ちょうど良い機会と考え、引き受けることにしました。


内容


前2報において、ベクターキャッピング法を用いて作製した完全長cDNAライブラリーは、完全長であることが保証されたcDNAクローンからなることと、発現プロフィールを忠実に反映していることを強調してきました。この論文では、選択的スプライシングバリアントという観点からベクターキャッピング法を用いるメリットを論じてみました。


選択的スプライシングバリアントを明らかにする上で最も重要なことは、単一mRNA分子に由来する完全長cDNAクローンを得て、その全長配列を決めるということです。従来法では、長鎖遺伝子の単一mRNAに由来する完全長cDNAを取得することが困難でした。そのため、cDNA断片をつなぎ合わせて完全長cDNAとしていましたが、各断片は異なるスプライシングバリアントmRNAに由来する可能性があり、真の選択的スプライシングバリアントとは言えません。


選択的スプライシングだけでなく、選択的転写開始点や選択的ポリアデニル化部位もあり、これらは互いに密接に関係している可能性もあります。従って、この場合も単一mRNAに由来する完全長cDNAの取得が必須となります。また、単一mRNA由来のcDNAであれば、転写産物のハプロタイプを決めることもできます。


本論文では具体的な例として、4種類の網膜特異的な遺伝子(AIPL1、LHX3、NRL、OTX2-AS1)と4種類の長鎖遺伝子(GOLGB1、FLNA、FLNB、EYS)の選択的スプライシングバリアントを取り上げました。ここではAIPL1のバリアントの例を紹介します。AIPL1は、さまざまなタンパク質と相互作用していることが知られています。特に桿体の光シグナル伝達に関与する鍵酵素PDE6サブユニットの集合に必須であり、レーバー先天性黒内障の原因遺伝子の一つです。


Y79からAILP1の完全長cDNAクローンが18個取れています(ヒト遺伝子コレクションHP05221)。この中の15クローンについて全長配列を決定した結果、下図に示すように、V1からV7まで7種の転写産物からなることがわかりました。選択的スプライシングバリアントだけでなく、転写開始点やポリアデニル化部位のバリアントも含まれています。その結果、アミノ酸残基数の異なる5種類のタンパク質をコードする転写産物が存在することになります。さらに注目すべきは、#1から#6までの6個のSNPを有する転写産物が存在することです。これから転写産物のハプロタイプがわかります。


AIPL1exon-intron

AIPL1は高発現遺伝子ですが、これだけ多くの選択的スプライシングバリアントがあるとすると、その中のいくつか(例えば、V2、V5、V6、V7)は、希少転写産物である可能性もあります。すなわち、選択的スプライシングバリアントの観点から見れば、長鎖転写産物だけでなく、希少転写産物も取得する必要があるということになります。


以上の結果から、ベクターキャッピング法を用いることによって、希少転写産物や長鎖転写産物からも単一mRNAに由来する完全長cDNAクローンを効率よく得ることができるので、この方法が選択的スプライシングバリアントの解析をする上でも最適であることを示すことができました。


余談


上図のRefSeqは、当時Entrez Geneに載っていたものです。最新のRefSeqを見てみると、我々が登録したバリアントも追加されています。ただ、このRefSeqの決め方に問題があります。登録されたcDNAの配列とゲノムの配列に基づき、断片の配列を組み合わせてRefSeqとしているように見受けられますが、RefSeqとしては単一mRNA由来の配列を採用すべきです。